平成27年度研究発表大会の記録
日時・会場
日 時 平成27年9月5日(土)9:00~17:00
会 場 帝京科学大学千住キャンパス7号館
第1部 一般研究発表
―教育方法の視点を拓くための試案―
「論理的思考力の育成」が主張される中、読書はしていても活用できる語彙が少ない子どもの実態がある。そこで、論理的思考力の育成を目指す観点から行った調査より、①論理的思考を支える思考過程について実態把握をし、②把握した実態が読書経験または読書活動と関連しているかを検討した。この結果を一事例として、論理的思考力を育む上での課題を明らかにするとともに、子どもの読書活動の在り方についての提言を行う。
調査は、「あめ」という詩を小学4年生82名と短期大学生148名に読ませ、詩から感じられる風景を描かせるものと、「盆踊り」という詩の題名を隠して前述の対象者に読ませ題名をつけさせるものである。風景を描く調査からは詩の情景を理解できている者は少ないことが分かった。また詩の題名をつける調査では小学生は「輪」とした者が47.5%、「夏祭り」とした者が12.2%、短期大学生は「盆踊り」が28.4%、「夏祭り」が21.6%と答えていた。
このことから読書の在り方として量的拡大と同時に1冊の本を何度も深く読む経験や個人の感性では選ばない本との出会いを意図的に仕組むことが必要であるということが明らかとなった。
―先行研究・実践の分析を中心にして―
読書活動の推進をめぐり、長年にわたり多くの関係者が努力してきたにもかかわらず、読書世論調査及び学校読書調査の結果を見ると、児童・生徒による不読の状況は画期的に改善されたとは言えず、とくに高等学校生徒における読書の実態は深刻である。こうした現象の背景には、多数の研究者ならびに学校教師による読書の普及活動が行われてきたことはいうまでもない。そこで、この数十年間における読書指導に関する970点の雑誌論文・記事をもとにして、読書指導に関して「何を」(内容)「どのようにして」(方法)指導してきたのかを分析することによって、読書指導に関する現実的な取組やその道筋について考察するとともに、特に読書指導に関わる実質的な責任主体と位置付けられる教師の指導について焦点を当てて検討する。
研究の結果、分かった事柄は次の通りである。
① 小学校での取組が全体の全体の46%を占めている。
② 1985年~1999年の記事が著しく少ない。
③ 中学校・高等学校での取組が少ないこと、特に2010年以降高等学校に該当する文献が少ない。
―公立学校図書館の条件整備における国の責任―
学校図書館は生涯学習者を育成するための基盤であり、国および自治体に条件整備を行う義務がある。しかし、現行の「学校図書館法」には、学校図書館に関する専門職員を配置するための明確な規定がなく、学校司書の配置は設置者の裁量に委ねられている。国の責任において、国立大学に司書教諭・学校司書養成課程を設置し、養護教諭・栄養教諭に準じた養成制度を整備し、各学校図書館に専門職員を配置することが望まれる。そのためには専門職団体による研究や運動の推進が必要である。
まとめと課題は次の通りである。
自由主義的な教育改革により、学校図書館の格差が拡大している。特に公立学校の学校図書館の地域間格差については、不利な条件で育つ子どもの教育人権保障の観点から、国の責任において是正される必要がある。そのために、司書教諭・学校司書の養成と配置について、国が責任をもって整備しなければならない。
図書館は「本を置いてある場所」という概念を覆して、「学習のための特別教室の一つ」であるという考えに立ち、図書館は図書委員を育てる場、図書委員会組織を作り上げる場であると位置づけて、積極的に教育活動を進めてきた。個々の生徒の社会性を育て、次世代に通用するリーダーを育てる教育現場という側面で学校図書館を捉え、「生徒の自主性を育む図書委員会活動」を生徒とともに進めている。時代とともに生徒の生活感環境変化で協働的に活動することの苦手な生徒が増えてきている。また、自主的に参加するはずが、他人任せになり図書館に足を運べない委員も見られる。学内組織改編を機に生徒たちの得手不得手と向き合い自信をもって歩ける大人を目指して図書委員会の中でできる教育活動を組み立てた実践研究である。
これまで学園内4つの学校運営組織の改組改編に伴い、一本化した学校図書館の利用を円滑にするために図書委員会は女子部が加わるなど90名という大きな集団となった。その結果、学校図書館の維持運営活動の他に、学園内の幼稚園での「読み聞かせ隊」学園祭での登録、L-1グランプリへの挑戦、東日本大震災被災地支援活動など様々な活動の場を広げ、これらの活動を通してグローバル人材の育成に努めてきた。こうした活動を進める中で、学校図書館が社会と直結していることを改めて実感させることができた。図書館教育の重要性を念頭に置き、図書委員会組織も生徒の教育現場として機能させることが重要であることが明らかになった。
―国際比較による解明―
学校図書館の理念とその専門職員の役割には緊密な関連が在ると思われる。本発表では学校図書館理念の革命乃至劇的革新が、専門職員の役割や職務をどのように変化させてきたかをグローバルに解明する。20世紀初頭の学校図書館理念の成立は図書と図書館の教育的効果の認識によるもので、新たにTeacher Librarian というポストを生み、1950年代後期の理念第一革命である「教科資材センター」は「図書館メディア専門員」の職務を出現させた。1970年代には第二革命である本格的図書館の理念が経営者として優れた情報専門家の教師を要求し、1980年代後半には第三革命の生涯学習の場としての理念によって情報専門家と教師に学習コンサルタントの職務が加わった。現今の携帯型高度通信情報機器の急激な普及は学校図書館理念の第四革命を予測させるが、その専門職員の役割は大局的には未だ模索状態にある。
しかし、Smart-Phoneやi-Padの利用が子どもにまで普及した高度情報社会の今日でも、学校図書館理念は原理的には変わらないという考え方が国際的には大勢を占めている。例えば全米学校図書館協会(AASL)はSchool Librarianの職務を「生徒と教員による広範な形態での情報アクセスの促進、生徒と教員による情報の取得、評価、利用とこれらに必要とされる技能の指導、また児童・青少年への文学、その他の情報源の紹介によって彼等の見識の拡大に努めること」が重要であるとしている。
―各教科に関わって行う情報スキルの系統的指導―
中学校では、情報活用スキルの指導は各教科でばらばらに指導しているか、またはあまり指導されていないかであるのが現状である。学校図書館は全教科の学習に深く関わっており、司書教諭が全教科を見渡したコーディネートをしなければならないと考えた。まず、すべての教科にわたる情報活用スキルの指導項目を拾い出した。そして、3学年通して25のスキルに精選し、授業を考え、実践を積み重ねた。3年間情報活用スキルの指導をしてきた生徒の全国学力定着度調査(平成25年度)では、国語Aで3.7ポイント、国語Bで5.3ポイント全国平均を上回り、特に記述式の問題の平均値が高いという結果が得られたため、生徒が既知の情報を活用して、自分の意見、考えを表現する力をつけてきたことが明らかとなった。
この実践で拾い出した情報スキルは、堀田龍也・塩谷京子編『学校図書館で育む情報リテラシー』をモデルとして城山中学校版を作成した。その結果、職員対照のアンケートでは、分かりやすく話すことができるようになった生徒は92%、文章表現の仕方がうまくなった生徒が89%となっている。また、全国学力学習状況調査では、国語Bの言語事項については全国平均よりも7.7ポイントも高く、このスキルの活用による授業改善の効果は大きいということができる。
―アクティブ・ラーニングを学校図書館が担う―
「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(平成26年11 月20日)中央教育審議会 文部科学大臣諮問文)によると、「『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもちろんのこと、『どのように学ぶか』という学びの質や深まりを重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」が大切であるとし、そのような学習をアクティブ・ラーニングとしている。学校は今後さらに児童生徒のたくさんの「なぜ?」「どうして?」を掘り起こし、解決の道筋を教えることが求められ、そのために、図書館資料の活用とともに、PCやタブレットを活用するデジタル資料の利用を迫られることになる。学校図書館はその機能を発揮して、アクティブ・ラーニングを積極的にサポートしなければならない。東京学芸大学は、デジタル教材の評価・認証を行い教員の授業づくりを支援していきたいと考え、「東京学芸大学デジタル教材評価センター(仮称)」の設立準備室を立ち上げた。その研究の一端を報告する。
東京学芸大学では、その準備室の動きとしては、推進委員会、企画運営部会、外部評価委員の3部署を設け、デジタル教材評価検討会、デジタル教材拡大評価委員会を実践協力校、実践研究協力者、東京学芸大学附属学校司書部会などの協力のもとに、いずれも月1回開催のペースで進めている。
学校図書館における選書の状況に目を向けてみると、近年はさまざまな要因により、従来論じられてきたような理論だけでは実践が難しくなってきている。蔵書構成における重要なプロセスのひとつである選書を難しくさせている要因はどのようなところにあるのだろう。本研究では主として中学校における学校図書館の選書の実態を取り上げ、選書に関するこれまでの問題点や事例を検証しながら、これからの学校図書館には、どのような選書のシステムが必要なのかを明らかにし、その課題について考察した。
選書の現状は次のような課題を内包していることがうかがえる。①選定手段、選定方法が複雑化しているためこれで本当によいのかという戸惑いや便利さゆえに何の疑問もなく進めるケースがみられること、②利用者のニーズにかなりの変化が生まれている一方、選書状況は厳正なる選定方針や選定会議の踏襲が続いている現状があること、③選書のための時間の確保が難しいこと、④選書基準ないしはガイドブックが形骸化していること、⑤教育課程に寄与することや健全な教養の育成という学校図書館の目的にそぐわない選書の傾向に陥るケースも生まれていることなどが挙げられる。
―司書教諭を養成する大学における学校図書館用図書の所蔵状況―
司書教諭の養成にあたる大学・短期大学が必要な図書館資料を提供するための収書計画や蔵書計画を検討するために、学校図書館用の図書の所蔵状況を明らかにすることを目的として調査を行った。学校図書館司書教諭講習科目を開設した大学・短期大学を対象として国立情報学研究所のCiNii Books を利用し、全国学校図書館協議会編『学校図書館基本図書目録』の2011年版以降に収録された図書について所蔵を確認した。その結果、学校図書館用の図書について大学・短期大学全体で所蔵率は高く、ILLでの利用可能性は高いが、個々の大学・短期大学では小学校図書館用の図書の所蔵タイトル数が中学・高校用と比較して少なく、所蔵する大学・短期大学が限られることが明らかになった。この結果から特に小学校図書館用図書の充実について検討する必要性を指摘する。
『学校図書館基本図書目録』によりISBNコードが得られた資料は10,029タイトルであり、CiNii Booksで検索した結果、9,765タイトルがヒットした。そのうち、97.4%はNACSIS-CATの接続機関のいずれかで所蔵されていることが明らかになった。
第2部 課題研究発表
教育課程の展開に寄与する学校図書館―確かな学力の育成と学校図書館の活用―
【課題設定理由要旨】
学校図書館の設置目的は、学校図書館法第2条に「教育課程の展開に寄与するとともに、児童又は生徒の健全な教養を育成する」ことにある。しかし、学校図書館の現状はその目的を果たしているとは言い難い。世界のグローバル化や技術革新が進む中、これからの教育のあり方が問われている。これらの課題の解決に向けて学校図書館は大きな役割を果たすことができるはずである。学校図書館の果たす役割と具体的な活用方法、組織的な運営の在り方などについて追究する。
―修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を通して―
学校図書館が学校経営における教育課程の展開に貢献するために、司書教諭にどのようなことが求められているかを明らかにしたい。そのため、司書教諭7名に協力を依頼し、半構造化インタビューを実施した。それらの逐語録データを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチの手順によって分析した。具体的には司書教諭と他者との関係性や相互作用の概念を生成したカテゴリーにまとめ、その上で、司書教諭による教育課程認識形成プロセスの図式化を試みた。その結果、①調査対象者の学校図書館経営は教育課程への認識が影響していること、②調査対象者は学校図書館活動において学校図書館内外の協力者を得ていること、③調査対象者は学校図書館だけでない学校経営上の指導的立場にあり、教育課程の実施過程を熟知していること、以上が明らかになった。そこから司書教諭の教科課程支援の認識の形成の出発点として学習スキルの獲得や研修等が重要だということが明らかになった。
司書教諭は、司書教諭という辞令の発令を自然の流れと受け止め、辞令を受け取ることに誇りを感じていた。そのことを校長(副校長・教頭)からのプラス評価と受け止め、自分自身を授業と学校図書館のパイプ役としての役割を自覚させ、自己研修に励ませ、リーダーシップ発揮へと至る姿があった。さらに、司書教諭は、わりと便利だということに気付いた」という同僚教師からの声も大きく背中を押すものであった。「仲間の承認による仕事への自信」が見られ、一方では、生徒のために役立っているという「児童・生徒への役立ち感」も見られた。そこから「職務への自信形成」を経て、自発的研修とリーダーとしての自覚を深めていくのである。
―市川市における学校図書館担当職員の活用研究を中心に―
近年の学習指導要領の改訂論議では、現在の言語活動の取組を前提に、子どもたちの主体的・協働的な学び(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)を推進する授業の重要性が唱えられている。学校図書館においては、教育課程の展開に寄与する観点から、授業における子どもたちの多様な思考の広がりや深まりに応えられる多様な資料や情報を適切に提供できる、学校図書館担当職員(以下「学校司書」という。)の資質向上が喫緊の課題となっている。このような問題意識に基づき、平成26年度に市川市教育委員会が受託した文部科学省の委託事業「確かな学力の育成にかかる実践的調査研究 学校図書館担当職員の効果的な活用方策と求められる資質・能力に関する調査研究」を通じて得られた成果や課題を明らかにすることにより、教育課程の展開に寄与する学校図書館の在り方についての考察を深めることにした。
研究の結果の概要は次の通りである。①学校図書館活用に関する校内体制として、校務分掌及び学校要覧への位置付け、初若年教諭へのサポート体制の確立、ICT機器の活用によるデータの共有、教育課程全般での活用推進、新聞の利活用、②学校司書の役割機能については、学校司書のレファレンス、司書教諭及び担任との連携、課題解決へのサポート、③学校長のリーダーシップ、④教育委員会の支援などである。
学校図書館機能を活用して授業構成を考える際に、授業構成の方法的な問題から学校図書館機能をどのように活かせばよいのか整理を試みた。単元構成を例に、導入・展開・終末が担う役割からすると、どのような学校図書館機能を活用できるのか、授業事例をもとに検討した。
学校図書館が授業構成に影響を与える機能としては以下の4つが挙げられる。①生涯教育施設として図書館の目的・機能・利用法を学ぶ機能、②読書の意義や効果、方法を学ぶ機能、③読書指導を入口に多様なメディアが利用できるようになる機能、④多様な資料によって広く・深く・調べ・考え・教師が用意した教科書や教材、教育方法を補完・充実させる機能である。これを単元のレベルで考えると、導入段階では③④、展開では③④、終末では②の機能が有効であることが分かった。
今次の学習指導要領改訂において、国語科の学習指導における従来からの発問応答中心、教師主導の授業から、単元を貫く言語活動と並行読書を採り入れた児童主体の授業への改善が求められている。児童は単元を通して教材文を学習しながら関連する図書を読み進め、教材文で学んだ言語活動を、自分が選んだお気に入りの図書を活用して再度実践することにより、最後まで学習意欲を継続させ、確実に国語力を身につけることができると考えた。このような単元を貫く言語活動と並行読書、交流を採り入れた新しい国語授業を創造する上で、学校図書館の果たす役割は重要である。学校図書館司書や図書館ボランティアと連携しつつ、充実した言語活動と並行読書を有機的に機能させる学校図書館活用の実践研究を報告する。
単元を貫く言語活動と並行読書を採り入れた新しい国語科の授業においては、学校図書館の有効活用は欠かせない。担任、司書教諭、学校図書館司書との連携等組織的な対応が言語活動を創造することができ、児童は楽しみながら主体的な姿勢で学習に取り組み、言語能力を向上させることができた。関口台町小学校には学校司書が配置されていなかったため、図書館ボランティアの方々に多くの協力をしていただいた。現在ある施設や自在を有効に機能させ、国語のみならず学校図書館の各教科学習への一層の活用が課題となる。